|
ナルトの奴、また落第しちまったな。
俺はベッドの上で火影様の言葉を思い出していた。
火影様の言いたいことは解る。俺だって別に憎いから失格にしたわけじゃない。忍びは生半可な気持ちでできるような仕事じゃない。一つ一つの積み重ねだ。なんでもかんでも適当にやればいいってもんじゃない。苦手なものもちゃんと克服してどんな場面でも対応できるようにならなければならない。分身の術は基本中の基本の技だ。できなくて困るのは忍びとして任務をしている自分なのだ。
任務、カカシはずっと任務をしているのだろうか。あれからカカシの姿を見ていない。今までだって長い時には数ヶ月見たことなかった時だってあるんだ。たかだか数日前から姿か見えないだけなのに。
カカシが、好きだって。俺が、俺が?なんでだよ、ずっと友達だったじゃないか。小さい頃からずっと一緒だった。苦しい時も楽しい時も一緒だった。俺たち親友じゃないか。なんで、き、キスとか、は、肌を、あ、あああああああっ、くそっ、何言ってんだよあいつっ、どうしてそんなこと言うんだよ。今までずっと楽しくやってきたじゃないか。なんであんなこと言ったんだよ。俺は、俺はどうしたいんだよ。
ナルトのことも気がかりだったがカカシのことも気になる。あああああっ、なんでこういっぺんにどかどか悩み事がやってくるんだよっ。
大体あの時だていつもみたいにまた女たぶらかしちゃって!なんて言われるものと思って覚悟してたのに、なんで俺なんかが好きだなんて言うんだよっ。
お、俺は知ってんだぞ!!カカシは里一番の技師だって。そ、その、女性関係がまことしやかにお盛んだそうでっ!!まあ、確かに顔だけはいいもんなあ、あいつ。俺だってきっと女だったらあの顔でころりとやられたに違いない。
が、その実、寂しがり屋でエロくて根暗で甘えたがりで寝汚くて食い意地張ってることも知ってるから±0かなあ。
でも本当は、誰よりも仲間思いで優しくて、暖かくて、安心する。
って何考えてるんだよ俺はっ!!なーんでそんな乙女な思考に走ってんだっ!?それもこれもあのカカシのせいだっ。
あー、そうだよ、俺はここ最近ずっと嫌になるくらいカカシのこと考えてるよ。だってそれはそうだろう?ずっと親友だと思ってた奴にいきなりあんな、あんな告白されちゃってさっ。なーにが肌を合わせたいだっ!!そんな台詞吐くのはどっかの本の主人公だけだっつのっ!
ここ最近、おかげで俺は寝不足なんだよっ。どうしてくれるよ、今日だってちょっと残業しようかと思ってたけど顔色が悪いからって同僚に気を遣われて早々に帰ってきちまったんだぞっ!どうしてくれるっ。
ま、まあ、本当にちょっとお疲れ気味ではあるんだけどなあ。
こんな時に敵襲とかあったら、俺、すぐに倒されそう...。とーほほー。
ドンドンッ
「ひっ、」
突然に部屋のドアをノックされたその音に、俺は恐ろしく驚いて心臓をバクバクさせながら戸を開けた。そこにはミズキが立っていた。びとく慌てているなと思ったら、どうやらナルトが封印の巻物を奪って逃げているらしい。
...ナルト、お前は俺に胃潰瘍を起こさせる気か?と一瞬気が遠くなったがそんなことをしている場合じゃない。
俺はナルトを探した。そして這々の体で探して、そしてミズキの裏切りに気が付いた時にはもう遅くて、ナルトに九尾が封印してあることがばらされてしまった。
ミズキの馬鹿野郎、どうしてナルトの気持ちを考えることができなかった?どうして自分の野望のためだけにナルトを利用したんだ。あの子はただでさえ自分の置かれている環境に苦しんでいると言うのに。
冷たい目を向けられる日常、何故自分は疎まれるのか、こうもうまくいかないのか、いたずらすることでみんなの注意を引きつけたくて、でも侮蔑の眼差ししかもらえなくて、踏んだり蹴ったりだったろう。
けど、ナルト、お前は俺の生徒なんだよ、木の葉の大事な火の意志を受け継ぐべき子どもなんだ。こんなところで駄目になっちまうような、そんな人生をお前に送らせるわけにはいかないんだ。
気が付けば、ナルトに向けられた大型の手裏剣を背中で受け止めていた。それは気が遠くなる程の激痛だったけど、ナルトの気持ちを考えればこんなのどうでもよかった。
どんなにか辛かったろう、苦しかったろう。ナルトの心情を思えば余りある。
その後ナルトは巻物を持って逃げ、追いかけたミズキを俺が追いかけた。そしてミズキの足止めに成功したはいいものの、体はボロボロでもう動くこともままならなかった。
ミズキがナルトは九尾だなんだとご託を並べていたが、俺は鼻で笑ってやった。
ナルトはこの里の灯火だ。里を明るく照らす、温かい火の一つだ。あいつは大切なこの里のナルトなんだ。
言えばミズキは面白くないとでも言うように顔を歪ませやがった。
お前は、どうしてここまで曲がっちまったのかな。子どもの頃に一緒に遊んだことだってあった。俺はお前を信頼してた。なのにお前はいたいけな子どもも、火影様ですら欺いてまで封印の巻物を奪おうとした。こんなものがなくたって、人は強くなれるのに。
大型の手裏剣が俺に向けられたとき、俺は正直もうこれまでかと思った。
過去が走馬燈のように流れるってのは本当だな、とか思ってしまった。ぐるぐると色んな場面が流れていく。
...。
ん〜?なんでだろう...。
おかしい、どうして全部同じなんだ?全部全部、同じ顔だ、痛そうに笑う笑顔も、いたずらを成功させた時みたいに笑う顔も、弱音を吐かない苦しげな顔も。
全部全部カカシの顔だ。
カカシ、お前の顔ばかりが浮かんでくる。
ああ...。
俺はこんな所まできてようやく理解した。
俺、馬鹿だ、こんな時になってやっと解っちまったんだ。死にそうになってやっと。
ごめん、カカシ、俺、お前にひどい態度とっちまったな。俺、心の中ではとっくに、
...お前のことが好きになってたのに。
どうして気付かなかったんだろう。ずっと側にいたのに、ずっと側にいたからかもしれない。近くにいすぎて解らなかったの、なーんて歌があった気がするなあ。あはははは...。
くそ、背中の傷がこんな所で急に痛み始めた。
もう、ここまでなのか?俺、やっと自分の気持ちに気が付いたのに、俺、死んじまうのか。
ミズキが手裏剣を投げる構えを取ったのを見て、俺は目を閉じた。
が、いくら待っても俺の死の瞬間は訪れなかった。逃げたと思っていたナルトが俺のピンチを救ってくれたのだ。
ナルトは禁術の一つを自分のものにし、見事ミズキを倒した。ミズキは中忍レベルだ。
そいつを倒したなんて、それはもう、認めるしかないよなあ?お前はこれからどんどん伸びて行くに違いない。
「ナルト、ちょっとこっち来いっ、」
俺はナルトに額宛てを付けてやって、合格を言い渡した。
ナルトは涙を流しながら抱きついてきた。
いててっ、痛いって、と呻いたがナルトはグシグシと涙を滲ませてぎゅうぎゅう抱きしめてきた。子どもの体温があったかくて、俺は抱きしめ返していた。
ありがとうな、ナルト、俺はここで死ぬわけにはいかなかった。お前は俺の認めた優秀な生徒だ。そして命の恩人だ。
それからナルトは動けない俺を気遣って、救援部隊を呼んでくるってばよ、と言って走って行ってしまった。
背中の傷はズキズキと痛むが、命に関わるものではないだろう。ただ、里内での怪我だから医療忍術での治療は認められないだろうから全て自然治癒で治さないとなあ。しばらくは包帯でぐるぐる巻きだなあ。生徒たちにミイラ男とか呼ばれそうだ。
まーたカカシにドジイルカ、なんて言われそう。
カカシ、お前にはできるだけ早めにこの思いを伝えたいなあ、やっと気が付いたこの気持ちを。
あいつ、怒るかもなあ、やっと気が付いたのかとか、この間殴りかかっちまったし、でもあいつだって急にキスだとか肌を合わせたいとかキザなこといいやがって、普段からあんな本読んでるからあんなペラペラ言葉が吐けるんだろう。
俺は不謹慎ながらもくすりと笑った。
「余裕、だな、イルカ...。」
途切れ途切れのミズキの声が聞こえた。気を失っていたかと思っていたがそうではなかったらしい。ナルトが縄でぐるぐる巻きにしていったが確認のために俺は重たい体を引きずるようにしてミズキに近寄った。
「ミズキ、お前は馬鹿だよ。ナルトはお前の思ってるような奴じゃない。」
「はっ、なにがこの里のうずまきナルトだっ。反吐が出る。」
俺はミズキの言葉を無視して縄が抜けないようにちゃんと縛れているか確認した。
うん、大丈夫だな、問題はない。が、ミズキが拳を握っているのが気になった。何かを隠しているような...。
「ミズキ、何を隠している?」
ミズキはニヤニヤと笑った。俺は嫌な予感がしてミズキの腕を取った。そして拳を無理矢理開かせた。が、そこには何もなかった。なんだ、ただのこけおどしか。
しかしミズキは俺のそんな一瞬の油断を逆手に取って俺の腕を掴んだ。が、所詮は縄で拘束された身だ。俺は持っていたクナイをミズキの首に突きつけた。
「抵抗するならもう少し痛い目見ることになるがいいのか?」
「ははははは、おめでたい奴だよイルカ、お前はなっ!」
なんだ?と思っているとミズキに掴まれていた腕が急に痛み始めた。なんだ?火傷みたいな?俺はミズキの手を取り払って飛び退いた。が、痛みは引かない。なんだこれ、何か模様みたいなものが浮かび上がっている、どういうことだ?
「ミズキ、なにをしたっ!!」
俺は声を荒げた。ミズキは簡単に答えやがった。
「なーに、大したことじゃない。イルカ、お前の一番消したくない記憶を消してやるのさ。九尾のガキが、大切なイルカ先生に自分の事を忘れられてはたして正気でいられるかなぁ?ククク楽しみだ、あははははははっ!!」
ミズキはそれでチャクラのほとんどを使ってしまったのか、かくりと気を失ったようだった。くそっ、とんでもないことしやがるっ。俺の意識も段々と朦朧となってくる。
だめだ、一番大切な記憶、確かにナルトとの思い出は俺にとって大切なものだ。だが、一番大切なのは、大切なのは、カカシ、お前のことなのに...。
ミズキのもくろみは叶えられることはないだろうが、だが、俺の記憶を、あいつが俺に忘れられたと知れば、カカシ、だめだ、俺は、やっとお前への気持ちに気が付いたのに...。
遠くでナルトの声が聞こえたような気がしたが、俺の意識は混濁の渦に飲み込まれていった。
カカシ...お前に、伝えたいのに...。
|